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売り込まないセールス

  • 山口 祐臣
  • 2017年2月10日
  • 読了時間: 4分

自動車専門サイトの特集を見ていて 二つの懐かしい思いを感じました。 記事に出てくる同じ年代の車が、 ちょうど私が車に熱中していた頃の フランス車であったこと。 カタログも穴があくほど見返してい たものです。 当時はインターネットもまだ一般的 とはいえず、テレビや本などで情報 を得ることが主流でした。 まだ見ぬ景色、流行のお店、評判の 料理やデザート。得た情報から想像 を膨らませて、実際に足を運ぶこと を楽しみにしたものです。 同じ頃の輸入車は、今ほどディーラ ー網が発達しておらず、大都市圏に しかない数少ない店舗を訪れるか、 数年に一度のメーカーの展示会や自 動車ショーなどでしか実車を見る事 は出来ませんでした。 だからこそカタログというものは、 まだ見ぬ夢の車を知るための数少な い手段であり、宝物のような存在で した。 あるフランス車のカタログ。 表紙に車の画像が掲載されているの は本国フランス版。 メカニズムの図解や工場の製造工程 などを数多くの画像や、データを用 いて先進性を具体的に伝えています。 対して、日本版。 表紙に車の画像がなく、一見すると 車のカタログであることすら分かり ません。 半透明の紙が使われるなどファッシ ョン誌のような仕上がりで、中身も スタイリングの美しさを伝える画像 に加え、メーカーの歴史やモーター スポーツでの活躍を紹介する、さな がら読み物ようなものです。 技術大国であり、精緻さと最も高い 品質を求められる国、日本。 花の都と称されるパリをもち、芸術 とファッションと美食の国フランス。 この2つの国カタログが全く真逆の 印象を持つ形で作られていた時代。 80年代のバブル景気真っ直中の日 本には、目先の販売実績にとらわれ ることなく、純粋に理想と夢を追い 求める余裕があったようです。 そんな直接的な売る気を感じない優 雅なカタログを眺めていて、ふと思 い出されたのは、転職してセールス になった頃。 当初は覚えたての、品々の特徴や利 便性を一生懸命説明していました。 エネルギーと熱意を消耗する割には 営業成績を表す一覧表の下の方に、 いつも私の名前はありました。 ある年に、私が時計・宝飾品の担当 になって、変化が起こります。 時計や宝飾品を一度の来店で購入さ れる方はほとんどいません。 最初はいつものように、品の説明を するのですが、お客様も好きなもの の情報ですから覚えてしまいます。 2度3度と来店されるうちに、話す ことがなくなります。 困った私は、間が持たないため止む を得ず雑談を始めます。 株価などの経済、近隣でオープンし たレストランに、話題の美術展やニ ューモデルの車の感想。 商品の話など、すっかり忘れて会話 を楽しんでいた頃、「じゃあこれで」 その日は、品物をトレーに出して置 いていただけで一切、セールストー クらしいことを話していなかったの で大変驚いたことを覚えています。 セールスマンとしてのキャリアの終 わり頃に至っては、品物の話が1割 雑談9割という有様で。はたから見 れば、「あいつはサボっている」と しか思われない様子だったのではな いでしょうか。 それでも売れていたのは何故か。 ひとえに私のセールストーク・・・ などでは決してなく。 お客様との共通点を一緒に発見し、 共感を高め。品やサービスの持つ世 界観や背景にある物語を伝えて。 その品のある、豊かで幸福な生活の イメージを膨らませていただき。 最後に、積み重ねた時間に育まれた 信頼に基づいて決断をいただく。 全ての段階に於いて、お客様の想像 という無形の力が決断の源なのです。 「買ってくださいよ〜」と情に訴え てお願いする。 緻密な情報提供で、論理的に利点を 訴えて決断を促す。 常に変わる状況、お客様やセールス の個性などにもよりますので、必ず しもどれが正解とは言えません。 一つだけ言えるのは、少なくとも私 が雑談ばかりして買ってくださった 方には「後悔」や「失敗」したと後 から申し出てくる方は一人もいなか ったことは、お約束できます。 今よりも格好良くなりたい。 素敵になりたい。便利で快適な暮ら しをしたい。 そうした想像の先にある「夢」を実 現するお手伝いをすることが、AIや ロボットに出来ない、人ならではの 「上質なサービス」です。 2冊の古いカタログが大切なことを 思い出させてくれました。

 
 
 

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